びまん性低酸素性虚血性脳損傷 ーその2ー

頭部

【症例】

40歳男性。遷延性窒息を伴う自殺未遂、心停止後の蘇生。既往歴として、HIV感染歴および左眼窩領域のムコール症の既往があります。

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Case courtesy of David Puyó Vera, Radiopaedia.org. From the case rID: 27704

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Global hypoxic-ischaemic brain injury axial
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Global hypoxic-ischaemic brain injury sagittal
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Global hypoxic-ischaemic brain injury coronal
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画像所見:

基底核全体、視床、左前頭葉、左後頭葉、橋に低吸収域を認めます。大脳の皮髄境界は不明瞭で、広範囲にわたる全脳浮腫により脳回が消失し、左側脳室が完全に消失しています。

左から右への正中偏位、帯状回ヘルニア、左右の鉤ヘルニアを認めます。

小脳扁桃が大後頭孔レベルより下垂しており、ヘルニアの所見です。

中脳周囲槽の消失、中脳の圧迫による変形があり、橋腹側部が斜台に押し付けられて平坦化しており、中心性ヘルニアの所見です。

眼窩領域、蝶形骨洞および視神経に関連して、既知のムコール症が認められます。

結論:

全身性低酸素性虚血性障害:患者は数時間後に死亡した。


脳ヘルニア

帯状回ヘルニア(大脳鎌下ヘルニア)

  • 左右の大脳半球を隔てている大脳鎌の下をくぐり抜け、反対側へ脳組織(帯状回)が押し出される状態。
  • 前大脳動脈が圧迫され、その支配領域(脳の内側面など)に脳梗塞を引き起こす可能性があります。

鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニア)

  • 頭葉の内側にある鉤(こう)が、大脳と小脳を仕切る小脳テントの縁を越えて下方へ押し出される状態。
  • 動眼神経が圧迫され「瞳孔不同(散瞳)」が起きたり、中脳の脳幹網様体が圧迫されて意識障害を来したりします。

中心性ヘルニア

  • 大脳半球全体が垂直方向に強く押し下げられ、間脳(視床・視床下部)が小脳テントの開口部から下方へ落ち込む状態です。
  • 意識レベルが急速に低下し、呼吸パターンの異常が見られます。
  • 脳幹(中脳や橋)の穿通枝が引っ張られて出血(Duret出血)を起こし、致命的になることがあります。

小脳扁桃ヘルニア(大後頭孔ヘルニア)

  • 小脳の下端にある小脳扁桃が、大後頭孔を通って脊柱管内へ押し出される状態
  • 生命維持の中枢である延髄(呼吸中枢・循環中枢)を直接圧迫するため、突然の呼吸停止や心停止を招きます。

ムコール症

ムコール症(Mucormycosis)は、特に免疫不全状態にある患者において、非常に進行が速く破壊的な「浸潤性」の経過をたどることがあります。

1.「浸潤性」の定義とムコールの性質

真菌性副鼻腔炎には「非浸潤性(真菌球など)」と「浸潤性」がありますが、その違いは真菌が粘膜下組織、血管、骨に侵入(浸潤)しているかどうかにあります。ムコール菌は血管侵襲性が非常に強く、血管内に侵入して血栓形成や組織壊死を引き起こしながら周囲組織へ拡大するため、基本的には「浸潤性」として扱われます。

2.眼窩尖部への進展

副鼻腔から眼窩尖部に軟部影が及んでいるということは、骨などの解剖学的な障壁を越えて隣接組織に波及していることを示唆します。これは典型的な浸潤性副鼻腔炎の挙動です。

3.背景因子

免疫機能の低下は、浸潤性真菌性鼻副鼻腔炎の主要なリスクファクターです。健常者であれば真菌球(非浸潤性)にとどまることが多いですが、免疫不全状態では菌が組織内へ侵入するのを防げず、浸潤型を呈します。

浸潤性真菌性鼻副鼻腔炎

急性と慢性があります。急性の場合、数日から数週間単位で進行し、鼻腔から副鼻腔、眼窩、さらには頭蓋内へと拡大することがあります。

CTでは副鼻腔の軟部影に加え、骨破壊像が見られることがありますが、骨破壊は病状が進行してからの所見なので、早期診断には副鼻腔周囲の脂肪織の混濁の同定が重要です。

全身性低酸素性虚血性障害(Global hypoxic-ischaemic brain injury)と、びまん性低酸素性虚血性脳損傷(Diffuse hypoxic ischaemic brain injury)の違い

どちらも「脳全体に十分な酸素や血液が行き渡らなくなった結果、脳組織がダメージを受けた状態」を表現していますが、言葉が持つ微妙なニュアンスや強調したいポイントにわずかな違いがあります。

1. ニュアンスの違い

  • 全身性(Global):
    • 原因の所在を強調しています。
    • 脳の一部(局所)の血管が詰まる「局所性(Focal)」の脳梗塞などに対し、心停止や血圧低下など「体全体(全身系)のトラブル」によって脳全体が影響を受けたことを示唆します。
  • びまん性(Diffuse):
    • 損傷の分布(広がり方)を強調しています。
    • 脳の特定の場所だけでなく、大脳皮質や基底核、小脳など、「広い範囲にバラバラと、あるいは網羅的に」ダメージが散らばっている状態を指します。

2. 使い分けの例

画像診断(CTやMRI)の読影レポートなどでは、以下のように使い分けられる傾向があります。

用語よく使われる文脈
Global心停止(CPA)後や重度の低血圧など、発症のメカニズムに言及する場合。
DiffuseMRIの画像上で、特定の血管支配領域に関係なく、広い範囲に信号異常が見られることを説明する場合。

一般的に、これらをまとめて HIE (Hypoxic-Ischemic Encephalopathy:低酸素性虚血性脳症) と呼びます。


記事で、「鉤状回ヘルニア」と記載していましたが、正しくは「鉤ヘルニア」でした。訂正してお詫びいたします。

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